2016.9.1 : 北方領土 政府新アブローチ
政府は、ロシアとの交渉で北方領土が日本に帰属するとの合意が実現すれば、既に北方領土で暮らすロシア人の居住権を容認すると提案する方針を固めた。
5月の日露首脳会談では、領土交渉を進展させるために「新たなアプローチ」で臨むことで一致しており、今回の方針は新アプローチを具体化するものになる。
歴史的経緯を巡って帰属を争う従来の協議が進展しなかった反省から、両国が合意した後の日本側の姿勢を示すことで、事態打開を図りたい考えだ。
安倍晋三首相は9月2日から2日間の日程でロシア極東ウラジオストクを訪問する。
今回の方針に基づくロシア側との協議は、2日のプーチン大統領との会談や、2カ月に1回のペースで行っている外務次官級の平和条約締結交渉を想定している。
ロシア側の検討を促し、12月に来日する予定のプーチン氏から前向きな姿勢を引き出す構えだ。
日本政府関係者によると、ロシア側は5月以降、「新アプローチを提案した日本が具体案を提示すべきだ」との意向を伝えてきた。北方四島には現在、
約1万7000人のロシア人が居住し、主に水産業や水産加工業に従事している。政府はロシア人の退去や両国による共同統治は困難とみて、
日本に帰属した場合でもロシア人の待遇を一定程度保障する必要があると判断した。政府内には、より幅広く権利を保障し、高度な自治を維持する考えもある。
これまでも政府は領土問題解決時にロシア人の「人権や利益、希望」を尊重する方針を示してきたが、居住権の容認を明確に示すことで、具体的な返還時期や条件などの協議進展につなげる狙いがある。
一方、首相は5月の首脳会談で、島民だった日本人の望郷の思いについて語っている。日本政府内では、両国が帰属問題で合意する場合には、
ロシア側に元島民らの居住権を認めるよう要求し、日本人の移住を可能にする案もある。
元島民らは現在、墓参や交流などを目的とする一時滞在のみ認められている。返還後のロシア人の権利容認の前例とする狙いだが、ロシアの実効支配を追認することにもなりかねず、政府内で異論が出る可能性もある。
北方領土を巡っては、「第二次世界大戦の結果、自国領になった」と主張するロシアと、「固有の領土」と訴える日本が対立し、協議が行き詰まってきた。
首相が提案した「新アプローチ」は、日本への帰属などで合意したとの想定で、統治制度のあり方について検討を目指すものと言える。
ただ、ロシア側が領土問題でどこまで譲歩するかは不透明で、居住権だけでなく、住民自治や行政機構のあり方など詰めるべき点は多岐にわたる。私有地の登記やロシア企業の資産の扱い、学校教育のあり方などの難題も多く、日本の思惑通りに協議が進むかは未知数だ。
安倍晋三首相は2日夕(日本時間同)、ロシア極東ウラジオストクでプーチン大統領と会談した。11月にペルー・リマで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際に再度会談するほか、プーチン氏が12月に来日し、15日に首相の地元・山口県長門市で首脳会談を行うことで合意した。
安倍首相は会談終了後、「地元で平和条約(交渉)を加速させたい」と記者団に述べ、北方領土問題を含む平和条約締結交渉を進展させる強い意欲を示した。
12月は山口・長門で
5月の南部ソチに続く訪露で、会談は非公式ながら夕食会を含めて約3時間10分にわたった。このうち約55分は通訳以外を退席させ、2人だけで話し合い、「両国がそれぞれの国益を総合的な観点から判断すべきだ」との見解で一致した。
日本政府としては首脳会談を活発化させることで、ロシア側に領土問題で前向きな姿勢を引き出すことを目指している。山口県での首脳会談は公式会談と位置づけるといい、共同文書を発表する見通しだ。
安倍首相は5月のソチ会談で経済を中心とする8項目の協力計画を示すとともに、北方領土問題解決に向けた「新たなアプローチ」を提案。2日の会談では首相が具体案を説明した。会談後、首相は平和条約の交渉について「2人だけで突っ込んだ議論ができた」と述べた。
さらに、「70年以上にわたり平和条約が締結されていない異常な状況を打開するためには、首脳同士の信頼関係の下、解決策を見いだすしか道はない」と指摘し、両首脳のリーダーシップで平和条約交渉を進める考えを強調した。
一方、ロシアのラブロフ外相は2日、ウラジオストクで記者団に、北方領土の共同開発について「われわれは以前から提案していた。日本はこれらの島における共同経済活動や人的交流について協議する用意があると感じた。平和条約締結交渉の重要な側面として話し合っていく」と述べた。
日本政府は北方四島の問題を解決できない限り、共同開発には同意できないとの立場を公式に示している。
プーチン氏が12月に来日すれば、ロシア大統領としては2010年11月にメドベージェフ大統領(当時)が横浜で開かれたAPEC首脳会議に出席して以来の来日となる。プーチン氏は首相時代の09年5月に来日しているが、
大統領としては05年11月以来11年ぶり。ロシア大統領の来日時の首脳会談を東京以外で開催するのは異例で、1998年に当時の橋本龍太郎首相とエリツィン大統領が静岡県伊東市で川奈会談を行った。
プーチン氏は会談の冒頭、8項目の協力計画について「真面目に検討している」と述べ、経済協力の重要性に言及した。