Forest Studio

2016.8.19 : V4へ鍛え抜いた30年

レスリング女子・吉田沙保里(33)




「闘志なき者は去れ」。津市のレスリング女子53キロ級の吉田沙保里(33)の実家のレスリング道場には、亡き父栄勝(えいかつ)さんの教えが張り出されている。
3歳から不屈の魂を吹き込まれて30年。吉田は「歴史に名を残し、天国の父に金メダルを見せたい」と誓う。五輪史上最多の女子個人種目4連覇を懸けて18日、マットに立つ。
自宅の道場で栄勝さんが主宰した「一志ジュニアレスリング教室」で吉田は3歳で競技を始めた。5歳の時、静岡で初めて大会に出場し、男子に敗れた。その男子の胸に下がった金メダルを見た吉田が言った。
「あのメダルがほしい」。栄勝さんは答えた。「あれはスーパーでは売っていない。努力した人たちしかもらえない」。吉田の金メダルへの渇望の出発点である。
妥協のない練習は毎日続いた。栄勝さんの廊下を歩く足音が近づくと、道場が静まった。高熱があっても一度はシューズを履いた。徹底してタックルを鍛え込まれた。
中3の時、練習試合で左手首を脱臼骨折。3本のボルトで固定した。3連覇が懸かるフランスでの国際大会の予選が間近だった。栄勝さんは「お前なら片手でも勝てる」と出場を求めた。
青森の漁師の家に生まれ、全日本選手権覇者になった栄勝さん自身、ひざの靱帯(じんたい)を断裂しながら試合に出た経験があった。
栄勝さんの指示で、母幸代さん(61)は吉田を連れ、病院に向かった。ギプスを外し、テープを巻き付けられるように突き出たボルトを切断するよう医師に頼んだ。医師はあきれて応じた。吉田は強行出場し、優勝した。
レスリングに情熱を注いだぶん、生活は楽ではなかった。栄勝さんは三重県職員で副業が禁じられる。教室は謝礼を受け取らなかった。国内遠征は1年に17回にも上った。特に女子は2001年に04年アテネ五輪からの採用が決まるまでは今と違い、 国や企業の支援がなかった。幸代さんは「食費は1日1000円」と切り詰めて家計を支えた。
そんな家族の支えを受け、「タックル」は磨かれていった。地元の久居高を経て、中京女子大(現・至学館大)に進み、アテネ五輪、08年北京五輪で優勝。4年前のロンドン五輪は、栄勝さんも日本女子代表コーチとして吉田のセコンドに就いた。3連覇の瞬間、吉田は父を肩車して走った。
「よかったな。ありがとう」。怖かった父から生まれて初めて聞く「ありがとう」だった。

吉田沙保里4連覇ならず、涙の銀

リオデジャネイロ五輪第14日の18日、レスリング女子の53キロ級で吉田沙保里(33)は決勝でヘレン・マルーリス(米国)に1−4で敗れ、4大会連続の金メダルを逃した。
また、五輪と世界選手権をあわせた世界大会の連覇も16で止まった。
第1ピリオドから低い姿勢で相手の動きを見る吉田。タックルを仕掛けるがポイントにはつながらない。試合が動いたのは第2ピリオド。相手に背後を取られて逆転されると、試合終了まで勝利を信じて果敢に攻め込むが、最後まで相手を崩しきれなかった。
吉田は初戦の2回戦でアゼルバイジャンの選手に4−0、3回戦でセネガルの選手に9−0で、準決勝ではベネズエラの選手に6−0でそれぞれ判定勝ちしていた。今大会は日本選手団の主将も務め、金メダルへの期待が高まっていた。
3歳から自宅の道場でレスリングを始めた吉田。父栄勝さんからは徹底してタックルを鍛えられた。「タックルを制するものが世界を制する」を信念に、「攻めろ、攻めろ」と相手を圧倒するタックルをたたき込んだ。
父から教えられた素早く相手の懐に入る「高速タックル」を武器に吉田はアテネ、北京、ロンドンと五輪3連覇を果たした。3連覇の瞬間、吉田はセコンドについた栄勝さんを肩車して走った。
その父は14年3月に亡くなった。「(栄勝さんを)肩車したまま一緒にリオに行く」と話していた吉田。父の形見となった高速タックルで、「霊長類最強」と呼ばれる吉田はリオでも最後まで相手を攻め続けた。
だが、目指してきた4連覇には届かなかった。試合後、吉田は「たくさんの方に応援してもらったのに勝てなかった。申し訳ない。最後は勝てると思ったが、取り返しのつかないことになってしまった」と号泣した。





伊調が金 史上初の4連覇



リオデジャネイロオリンピックは17日、レスリングの女子58キロ級で決勝が行われ、伊調馨選手が金メダルを獲得しました。女子の個人種目では世界初となるオリンピック4連覇です。
伊調選手は、1回戦でチュニジアの選手にテクニカルフォール勝ちし、続く、準々決勝も競り勝ちました。
そして、準決勝では前回、ロンドン大会の銅メダリストに対し、再び圧倒的な強さを見せてテクニカルフォール勝ちし決勝に進みました。
迎えた決勝では、おととしの世界選手権で準優勝している、ロシアのワレリヤ・コブロワジョロボワ選手と対戦しました。伊調選手は第1ピリオドで先に1ポイントを挙げましたが、このあと、 攻撃を仕掛けたところを突かれて、リードを許す展開になりました。続く第2ピリオドは、守りに意識を置いた相手に攻撃の形を作ることができず、ポイントを奪えませんでしたが、終了間際にタックルに来た相手を捕まえてポイントを奪い逆転勝ちしました。 金メダルを獲得した伊調選手は、これで女子の個人種目では世界初となるオリンピック4連覇を達成です。


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