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2016.7.13 : 南シナ海 . 「九段線」仲裁裁判決





仲裁裁判決 「九段線」中国の権益認めず 法的根拠なし

南シナ海のほぼ全域に主権や権益が及ぶとした中国の主張に対し、フィリピンが国連海洋法条約違反などを確認するよう申し立てた仲裁裁判で、 オランダ・ハーグの仲裁裁判所は12日、中国が主張の根拠としてきた「九段線」について、 フィリピンの主張を認め「資源について中国が主張する歴史的権利には法的根拠はない」とする判決を下した。
南シナ海の人工島で実効支配を進める動きについて、国際法上「ノー」が突きつけられた中国の「全面敗訴」に近い形で、中国政府は猛反発した。



南シナ海での中国の主張を巡り国際法に基づく判断が出されたのは初めて。
中国は従来、九段線の内側の海域で管轄権を有するとし、これは、国連海洋法条約発効(1994年)以前からの「歴史的権利」と主張してきた。これに対し、 南シナ海の岩礁について領有権を争ってきたフィリピンが2013年、中国の主張は「同条約に反しており無効」として仲裁裁判を申し立てていた。
判決では、中国の主張する九段線の「歴史的権利」について「南シナ海で中国が独占的な管理をしてきた証拠はない」と断じ、中国の主張を退けた。
中国は九段線の主張を背景に、南沙(英語名スプラトリー)諸島の七つの岩礁で人工島造成を行い、滑走路などを建設し軍事拠点化を進めていると批判されてきた。
判決により、造成を継続することに対しては「国連海洋法条約違反」として、国際社会の批判が強まる可能性が大きい。
判決ではさらに、七つの岩礁について、いずれも排他的経済水域(EEZ)が設定できる「島」ではなく「岩」か「低潮高地」と認定した。
周辺海域での資源開発への主権的権利も中国は主張できなくなった。判決はまた、七つの岩礁での埋め立てと人工島造成が、サンゴ礁の環境に深刻な損害を与え、国連海洋法条約の定める環境保護義務に違反していると認定した。
仲裁判決には上訴が認められず、法的拘束力があるが、判決を強制執行する手段がない。現状では中国の動きを実力で阻止できないが、判決の無視は国際的な批判にさらされることになり、中国の出方に注目が集まる。
また、判決を後ろ盾にフィリピンなどが海域で中国に対し強硬姿勢で臨めば、偶発的な衝突につながりかねず、これまで以上に緊張が高まる恐れもある。


「歴史的権利」退ける

 

仲裁裁判所の判決のポイントは中国が主張する南シナ海での排他的な「歴史的権利」を退けたことだ。
中国は南シナ海の島しょを最も早く発見し、命名し、開発・利用しており、資源を利用する歴史的権利を有すると主張する。だが、判決は資源利用は国連海洋法条約の排他的経済水域(EEZ)の設定に基づくものであり、中国の「歴史的権利」は条約と「相いれない」と判断した。
また、歴史的に中国の航海者や漁民が南シナ海の島々を利用してきたことを認めたうえで、これは中国側が他国の航海者らと同様に、公海上の自由を享受してきたことによるとして、中国だけの特別な権利は認めなかった。
一方、歴史的権利だけでなく中国が人工島造成を進める七つの岩礁についても「島」でないと判断し、EEZが認められなくなった。人工島造成による環境破壊も明確に認定した。中国による岩礁の軍事拠点化の国際法上の根拠も大きく揺らいだことになる。
今後も中国が造成を続ければ、国際法違反状態の継続となり、国際社会の厳しい批判にさらされることは避けられない。

仲裁裁判決 骨子

 

・中国が歴史的権利を主張する「九段線」の法的根拠はない
・南沙諸島に、排他的経済水域(EEZ)が設定できる「島」はない
・岩礁埋め立てと人工島造成は環境に悪影響を及ぼし、国連海洋法条約に違反

ことば 説明:仲裁裁判所

国連海洋法条約に基づいて、さまざまな海洋権益をめぐる争いを解決する機関の一つ。海洋問題の専門家5人が仲裁人(裁判官)を務める。今回はガーナ、ポーランド、ドイツ、オランダ、フランスの出身者だった。
国際司法裁判所などは相手国の同意がないと提訴できないが、仲裁裁判は相手国に通知するだけで始めることができる。

九段線

中国が設定している、南シナ海のほぼ全域を囲う9本の破線。中国はこの内側のエリアについて、中国の管轄権が及ぶと主張している。周辺国などは「国際法上、何の根拠もない」と異議を唱えているが、 中国は九段線による権利は「海の憲法」と呼ばれる国連海洋法条約発効以前から中国が有している「歴史的権利」と反論してきた。中国は管轄権の中身や九段線の緯度・経度などの詳細を明らかにしていない。


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