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2016.6.16 : 余録 骨董の世界に「じぶたれる」という言葉がある…



骨董(こっとう)の世界に「じぶたれる」という言葉がある。品が悪くて感心できぬものを評する言葉で、今少しで本筋の美に到達できず、物欲しげな境地に終わってしまった器物をいう。 「じぶたれ茶わん」「じぶたれ道具」という言い方もある。
▲漢字を当てれば、うぬぼれを表す「自負たれ」だろうと中島誠之助(なかじませいのすけ)さんの「体験的骨董用語録」(ちくま文庫)は推測する。だが人が眉をひそめるたたずまいの背後にうぬぼれが潜んでいるのは、 何も茶器ばかりではない。
人間、それも政治家の器(うつわ)についてもいえる
▲政治資金の公私混同を追及されていた舛添要一(ますぞえよういち)東京都知事が辞職願を提出した。出(しゅっ)処進退(しょしんたい)の出と進は他人の助けがいるが、 処と退は一人で決めるものと語った幕末の河井継之助(かわいつぎのすけ)を思い出す場面だが、実際は都議会全会派に背を押されてのすったもんだの「退」だった。
▲高額の海外出張費用問題から始まった一連の騒ぎである。そこで都知事がくり出す釈明や収拾策がことごとく世の反発と怒り、失笑を買い、騒動が雪だるま式に拡大した成り行きはご存じの通りだ。公私混同への人々の反発の過小評価は、やはり「自負たれ」ゆえか
▲こうなれば世の関心は一気に後継の都知事候補選びに移る。振り返れば、2代続けての政治とカネ問題による都知事の辞職である。大量得票の期待できる知名度が決め手となる都知事選の候補者選びだが、政治家としての器の鑑定がないがしろにされてこなかったか
▲骨董商がにせものを買ってしまうことを「しょいこみ」、傷を見落として買うのを「粗見(そけん)」という。都の有権者も自前の鑑定眼を鍛えねばならぬようである。


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