Forest Studio

2016.5.8 : 北朝鮮は核保有国 今後も開発進める

北朝鮮は9日、キム・ジョンウン(金正恩)第1書記が36年ぶりとなる朝鮮労働党大会で行った演説を国営テレビで放送し、キム第1書記は北朝鮮は「核保有国」だとする立場を改めて示し、今後も核・ミサイル開発を進めていく考えに変わりがないことを強調しました。
北朝鮮のキム・ジョンウン第1書記は、1980年以来、36年ぶりとなる朝鮮労働党大会で、6日と7日、みずから演説して党中央委員会の活動総括報告を行いました。
北朝鮮国営の朝鮮中央テレビは、日本時間の8日午後、このときの演説を「特別重大放送」として放送し、キム第1書記の肉声で党大会での報告内容を伝えました。
この中でキム第1書記は「わが国は、侵略的な敵対勢力が核で自主権を侵害しないかぎり、先に核兵器を使用しないだろう」と述べました。
そのうえで、「国際社会において、核兵器の拡散を防止する義務を誠実に履行し、世界の非核化を実現するために努力するだろう」と述べ、「世界の非核化」に言及しました。しかし、キム第1書記は、4年前の就任直後に憲法を修正して明記した、 北朝鮮は「責任ある核保有国」だとする立場を改めて示し、みずからの核開発を正当化しました。
そして、核開発と経済の立て直しを並行して進める「並進路線」について、「恒久的に堅持すべき戦略的な路線だ。核戦力を中心とする防衛力を固く築きながら、経済建設に一層拍車をかける」と述べ、今後も核・ミサイル開発を進めていく考えに変わりがないことを強調しました。
また経済に関しては、ことしから2020年までの5か年計画を推進し持続的な発展のための土台を作り上げるとしたほか、韓国との関係を巡って、前回の党大会でキム・イルソン(金日成)主席が提案した「高麗民主連邦共和国」と呼ぶ連邦形式などによる統一の実現を呼びかけています。
一方、キム第1書記は、演説の中で日本について、「わが民族への過去の罪悪を反省し謝罪すべきで、南北統一を妨害してはならない」と述べましたが、拉致問題など日朝間の懸案に関する言及はありませんでした。

 

韓国内は冷ややかな見方広がる

韓国統一省は8日夕方論評を出し、キム・ジョンウン第1書記が「世界の非核化」に言及しながら北朝鮮は「責任ある核保有国」だと主張したことについて、「みずから核放棄の意思がないことを露骨に表明したもので、国際社会は決して容認しない」と批判しました。そのうえで、 「北は核開発という誤った夢を捨てて非核化の意思を真剣に行動で示さなければならない」と指摘しました。
また、キム第1書記が南北関係を根本的に改善することが必要だという考えを示したことについて、統一省は「北が民族の生存を脅かす核開発や、われわれを直接狙った挑発を続けながら南北関係改善に向けた対話に言及するのは、全く誠意がなく、宣伝攻勢にすぎない」と一蹴しました。
韓国内では、核開発を続けようとする北朝鮮の姿勢に変化がみられないことから、今回の朝鮮労働党大会は、北朝鮮において3代続けての世襲を完成させるキム第1書記の「戴冠式」などとやゆする冷ややかな見方が広がっています。

中国新華社通信は論評抜きで速報

北朝鮮のキム・ジョンウン第1書記が朝鮮労働党大会で行った党中央委員会の「活動総括報告」について、中国政府は今のところ公式の反応を示していません。
国営の新華社通信は、朝鮮中央通信を引用して論評抜きで伝えています。最初の速報では、キム第1書記が「核兵器の拡散を防止する義務を履行し、世界の非核化を実現するために努力する」と述べたことを伝えました。続いて、「さらに多くの実用衛星を製造し、打ち上げる」と述べたことも速報しました。
その後の記事では、「敵対勢力」による侵害がないという前提条件付きで「先に核兵器を使用しない」と述べたことや、「責任ある核保有国」だとする立場に言及したことを伝えました。
さらに、キム第1書記が、韓国との関係改善や南北統一を呼びかけたことや、外交政策について過去に敵対関係にあったとしても北朝鮮の主権を尊重して友好的につきあう国とは「関係正常化を実現する」と述べたことも取り上げました。

欧米メディアは核兵器に関する発言中心に伝える

欧米のメディアはキム・ジョンウン第1書記が朝鮮労働党大会で行った演説について、核兵器に関する発言を中心に伝えています。
このうち、フランスのAFP通信は、北朝鮮が2006年に行った1回目の核実験の時にも核兵器を先に使用しないと表明しながらも、その後、韓国とアメリカに繰り返し核兵器による攻撃の脅威をあおるなど、北朝鮮の核兵器を巡る政策は「流動的だ」と伝えています。
また、イギリスの公共放送BBCは、北朝鮮が5回目の核実験の準備を進めている可能性が指摘されるなかで行われた演説だとして、「複数のメッセージを送ろうとしたようだ」と伝え、北朝鮮が核実験をちらつかせながらアメリカなどに関係改善を迫ったという見方を示しました。
一方、アメリカの有力紙ワシントン・ポストは、ことしから2020年までの5か年計画を推進し持続的な経済発展のための土台を作り上げるとしたことについては、専門家の意見を引用しながら、「キム第1書記が演説内容について国民に責任を持たなければならなくなり、リスクだろう」と伝えています。

北朝鮮当局に振り回される外国取材団

朝鮮労働党大会に合わせて、100人を超える外国の取材団がピョンヤン入りしていますが、これまでのところ党大会の会場内で直接取材する機会がなく、北朝鮮当局に振り回されています。
プレスセンターが置かれているホテルに滞在している外国の取材団は、党大会3日目の8日、日本時間の午前10時半に、全員パスポートを持ってロビーに集まるよう指示されました。そして、行き先や目的も告げられないまま、バスや乗用車に分乗してホテルを出発し、記者会見などが行われるピョンヤン中心部の「人民文化宮殿」に案内されました。
ところが取材団は、建物内部のホールで30分ほど待機させられたすえ、突然「予定が変更になった」とだけ告げられ、再び車に乗り込んで、日本時間の正午ごろ、ホテルに戻るという慌ただしい展開となりました。
アメリカの大手新聞社の女性記者は「記者会見か何かあると思っていたが、何の取材がキャンセルされたのかも分からず、当惑している」と話していました。

「特別重大放送」は16年ぶり

北朝鮮の国営メディアが「特別重大放送」を行ったのは、2000年にキム・ジョンイル(金正日)総書記と韓国のキム・デジュン(金大中)大統領が初めての南北首脳会談を行うことで合意したと伝えて以来、16年ぶりです。
一方で北朝鮮は、ことし1月に4回目の核実験を強行し「初めての水爆実験に成功した」と発表した時や、ことし2月に「人工衛星の打ち上げ」と称して、事実上の長距離弾道ミサイルを発射した際には、「特別重大報道」という形で伝えています。

ページのtop へ