2016.2.25 : シャープ ホンハイの買収提案受け入れ
経営不振に陥っている大手電機メーカーのシャープは、25日に臨時の取締役会を開き、台湾の大手電子機器メーカー、ホンハイ精密工業による買収を受け入れると正式に発表しました。買収にかける資金の総額は6600億円規模に上る見込みで、
シャープは日本の大手電機メーカーとして初めて海外メーカーの傘下に入ることを決めました。
経営不振に陥っているシャープは、台湾のホンハイ精密工業と、国と民間が作る官民ファンドの産業革新機構から、再建策の提案を受けていましたが、今月4日、支援額の規模で上回るホンハイと優先して交渉する方針を決め、本格的な交渉を進めてきました。
その結果、シャープは25日に臨時の取締役会を開き、ホンハイの提案を全会一致で受け入れることを決めました。
具体的な内容では、ホンハイはグループでシャープの4890億円の増資を引き受け、シャープの株式66%を取得して買収します。
また、ホンハイは主力銀行が保有する優先株のうち半分を合わせて1000億円で買い取ります。
関係者によりますと、このほかの支援も含め、今回の買収にかける資金の総額は6600億円規模に上るとしています。
シャープは資金の使いみちも明らかにし、次世代のディスプレイとして期待される有機ELディスプレイを再来年から量産するための設備投資に2000億円を投じるなどとしています。
シャープは、ホンハイの買収を受け入れた理由について、経営の独立性や従業員の雇用が維持されること、シャープのブランドを継続的に使うこと、技術流出を防ぐため協力していくことなどについて、ホンハイ側の確約が得られたためとしています。
シャープは、日本の大手電機メーカーとしては初めて、海外メーカーの傘下に入ることを決めました。
これについてホンハイは25日夕方、声明を発表し、シャープから「パートナーとして選んだ」という連絡があったとしたうえで、24日の朝、シャープから新しい重要な書類を渡されたとし、「内容をはっきりさせてコンセンサスを得るまでは調印は見送る。
できるだけ早くはっきりさせ、今回の取り引きが円満な結果になるよう期待している」と表明しました。
シャープの高橋興三社長は、午後5時すぎに報道陣の前で「午前中の取締役会で決議を行い、ホンハイさんの提案を受け入れることを決めた。決議は2回行い、1回目は11人で2回目は13人で決議を行い、
ともに全会一致で反対は無かった」と述べ、全会一致でホンハイ案に決めたことを強調しました。
決議を2回に分けて行ったのは、社外取締役のうち2人がシャープの優先株を保有する企業再生ファンドの幹部で、特別な利害をもつ関係者にあたる可能性があることから、2人を含む採決と含まない採決を行ったためです。
台湾の大手電子機器メーカー、「ホンハイ精密工業」の再建案では、シャープの買収にかける資金総額はおよそ6600億円にのぼります。
このうち、主なものをみますと、ホンハイはシャープの増資を引き受けることなどにグループでおよそ4890億円を投じる方針です。
また、主力銀行であるみずほ銀行と三菱東京UFJ銀行が保有する、2000億円分の優先株のうち半分の1000億円分を額面どおりで買い取ります。
さらに企業再生ファンドのジャパン・インダストリアル・ソリューションズが保有する250億円分の優先株も双方が合意した価格で買い取るとしています。
一方、主力銀行に対して債権放棄などの大規模な金融支援は求めず、主力銀行の負担が軽いのが特徴です。ホンハイは他のメーカーから委託を受けて製品を生産する受託メーカーとして世界最大を誇り、
アメリカのIT企業「アップル」の「iPhone」を受託生産するなどグローバルな販売ネットワークを持つことも強みだと訴えたとみられます。
ホンハイが巨額の資金を投じてシャープを傘下におさめるのは、液晶の開発技術に加えて、シャープの商品開発力やブランド力を自社のビジネスに生かすねらいがあるものとみられます。
ロボット型のスマートフォンの開発や他社にないユニークな発想の家電を生産してきたシャープに対して、ホンハイは、いわば巨大な下請け企業のため開発力はそれほど高くありません。
ホンハイは、スマートフォンやロボット、それに自動車などあらゆるところに使われるディスプレイ画面の世界的なリーダーになることを目指していて、
自社に不足している技術やノウハウをシャープから取り込むことで、さらなる成長をねらっているものとみられます。
シャープに再建策を提案していた官民ファンドの「産業革新機構」は、シャープがホンハイによる提案の受け入れを決めたことについて「シャープの経営陣が真剣に議論し、
最終的な判断を下した結果だと理解している。今後、ホンハイ精密工業の下でさらにシャープが成長することを心より願っている」とコメントしています。
林経済産業大臣は、シャープが台湾の「ホンハイ精密工業」による買収の提案を受け入れると決めたことについて記者団に対し、「雇用の確保と地域経済の発展ができると思っており、
外国資本によるシャープの発展がどのように進んでいくのか注視していきたい」と述べました。
そのうえで、経済産業省が所管している官民ファンドの「産業革新機構」の提案が会社側に受け入れられなかったことについて、「私どもは、機構の案がいいのではと思っていたが、
決めるのはあくまでもシャープだ」と述べました。
「産業革新機構」の意思決定機関の委員を務める日本商工会議所の三村明夫会頭は、NHKの取材に対して「われわれも一生懸命だったので、残念ではないと言ったらうそになる。
思いはいろいろあるが、事ここに至ったからにはシャープのすばらしい技術と従業員を最大限に生かして再生シャープを目指して欲しい。
ただ、今後は決して楽ではない。お金が入ったからといってすべて物事がスムーズにいくことはなく、内部の改革も含めて、これから大変な時期を迎えると思う」と述べました。
シャープが台湾の大手電子機器メーカー「ホンハイ精密工業」による買収を受け入れると正式に発表したことについて、台湾のメディアは、日本側の報道を引用する形で速報するなど、大きく取り上げています。
このうち、台湾の民間のテレビ局、TVBSは、「長い交渉のすえに、ホンハイとシャープの恋がついに実った」などと速報しました。
また、大手の夕刊紙「聯合晩報」は、このニュースを1面トップで伝え、「日本の大手電機メーカーが初めて外資に買収されることは、日本国内を大きく揺るがしている」と伝えています。
さらに大手通信社の中央通信は、「日本では経営困難に陥った企業は、ずっと政府や銀行の支援に頼っていた。しかし、シャープを奪い合う今回の戦いは、
日本が経済を開放するかどうかの試金石になるとみられていた」と指摘しています。
「ホンハイ精密工業」は、台湾の郭台銘会長が1974年に創業した電子機器メーカーで、売り上げおよそ16兆円と電子機器の受託メーカーとしては世界最大を誇ります。
自社ブランドの製品は生産していないため、企業名はあまり知られていませんが、日本やアメリカなど世界各国の電機メーカーから、テレビやパソコン、それにゲーム機などさまざまな電子機器の生産を一手に請け負っています。
アメリカのIT企業「アップル」のスマートフォン「iPhone」や「ソフトバンク」が発売した人型ロボットも、生産しているのはこの会社です。
一方、ホンハイは、液晶の開発技術などを手に入れようと、2012年に(平成24年)「シャープ」に対して出資を行う提案をしましたが、株式の取得価格や技術供与などで両社の折り合いがつかず白紙となりました。
ただ、シャープが大阪・堺市に建設し赤字だった大型の液晶パネル工場は、工場の運営会社の株式37%余りをホンハイグループが取得し、シャープと共同で経営しています。
世界中の電機メーカーからテレビの生産を受託している強みを生かし、工場の経営は黒字に転換しています。こうした状況を踏まえ、液晶事業の不振で経営危機に陥っているシャープに対して、再び出資を提案しました。
「シャープ」は、創業者の早川徳次が大正元年に(1912)ベルトのバックルを生産する金属加工会社として設立したのが始まりです。大正4年には、社名の由来にもなったシャープペンシルを発明して、
会社の礎を築きましたが、関東大震災で工場を火事で失うなど壊滅的な打撃を受けました。
シャープは、再起を図ろうと大正13年にシャープペンシルの製造販売の権利を売って、大阪に移転し電機メーカーに業態を変え生き残ります。
国内で初めてとなる鉱石ラジオの開発に成功し、昭和28年には国産のカラーテレビを初めて販売、世界初の電卓も産み出すなど、発明企業として新しい製品を次々と世に送りだしてきました。
シャープにとって大きな転機となったのは、昭和63年に電卓で培ってきた液晶技術を活用し、世界初のカラーの液晶ディスプレーを開発したことです。
その後、平成10年、当時の町田社長は、「国内で売るテレビをすべて液晶にする」と宣言し液晶テレビに経営資源を集中、液晶パネルからテレビの組み立てまで一貫して行うビジネスモデルを築き上げました。
平成16年には、三重県の亀山工場で生産した液晶テレビを売り出し「世界の亀山モデル」は爆発的なヒットを記録、平成21年には大阪・堺市に世界最大の液晶パネル工場も完成させました。
亀山工場と堺工場合わせておよそ1兆円にものぼる巨額投資が、その後のシャープの経営の重荷となっていきます。
韓国メーカーとの競争による大幅な価格下落や、リーマンショック後の需要の低迷で液晶テレビの販売が落ち込みこれにともない液晶パネルの生産で損失が拡大し、平成25年3月期の決算は、5453億円の過去最大の最終赤字に転落して、経営危機を迎えます。
このためシャープは液晶パネルの生産をテレビ向けからスマートフォン向けの中小型パネルへの転換をはかり再起を目指します。
しかし、中国経済の減速などで中小型パネルの需要は減少、液晶事業が会社の足を引っ張り、27年3月期の決算が2223億円の最終赤字に陥りました。創業104年目を迎えたシャープは、90年余り拠点を置いてきた大阪の本社ビルを売却したり、
3234人の早期希望退職を募集したりするなど、大規模な合理化に乗り出し経営再建を進めていました。