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2015.12.16 : 夫婦別姓認めない規定

明治時代から続く夫婦別姓を認めない民法の規定について、最高裁判所大法廷は、「夫婦が同じ名字にする制度は社会に定着してきたもので、 家族の呼称を1つにするのは合理性がある」などとして、憲法に違反しないという初めての判断を示しました。一方、裁判官15人のうち、女性全員を含む裁判官5人が「憲法に違反する」という反対意見を述べました。
民法には、明治時代から夫婦は同じ名字にするという別姓を認めない規定があり、東京などの男女5人は「婚姻の自由などを保障した憲法に違反する」として、国に賠償を求める裁判を起こしました。
判決で最高裁判所大法廷の寺田逸郎裁判長は、「夫婦が同じ名字にする制度は、わが国の社会に定着してきたものであり、社会の集団の単位である家族の呼称を1つにするのは合理性がある。
現状では妻となる女性が不利益を受ける場合が多いと思われるが、旧姓の通称使用で不利益は一定程度、緩和されている」などとして、憲法には違反しないという初めての判断を示しました。
そのうえで判決は、「今の制度は社会の受け止め方によるところが少なくなく、制度の在り方は国会で論じられ、判断されるべきだ」と指摘しました。
一方、裁判官15人のうち女性裁判官3人全員と、男性の裁判官2人の合わせて5人が夫婦別姓を認めないのは憲法に違反するという意見を述べました。
明治時代から100年以上続くこの規定を巡っては、夫婦は同姓にすべきか別姓を選べるようにすべきか意見が分かれていて、最高裁の判断が注目されていました。

 

多数意見 「家族が同じ名字には合理性」

16日の判決では、15人の裁判官のうち10人の多数意見として、家族を同じ名字とする制度には合理性があると認めました。
多数意見では「民法の規定は、夫婦がどちらの名字にするか当事者の話し合いに委ねていて、性別に基づく差別的な取り扱いを定めているわけではなく、規定自体に不平等があるわけではない」という判断が示されました。
そして、夫婦が同じ名字にする明治以来の制度は社会に定着しているとしたうえで、「家族を構成する個人が同一の名字を名乗ることで家族という1つの集団を構成する一員であることを実感することに意義を見いだす考え方も理解できる」として、 制度には合理性があると認めました。一方、「名字を変える人にとってアイデンティティーの喪失感を抱いたり、社会的な信用や評価を維持することが難しくなったりするなどの不利益は否定できず、妻となる女性が不利益を受けることが多いだろう」として、制度にはデメリットがあることも認めました。
しかし、旧姓を通称として使うことが広まることによって不利益は一定程度緩和されるとして、個人の尊厳や両性の平等を保障する憲法には違反しないと判断しました。また、寺田逸郎裁判長はみずからの考えを補足意見として示し、夫婦別姓の裁判について、 「司法の場での審査の限界を超えており、民主主義的なプロセスにゆだねることがふさわしい解決だ」として、国会で議論されるべきだという考えを重ねて示しました。

「憲法に違反」の5人の意見は

夫婦別姓についての判決では、最高裁判所の裁判官15人のうち、女性裁判官全員を含む5人が「婚姻の自由を保障した憲法に違反する」という意見を示しました。
最高裁判所の岡部喜代子裁判官、櫻井龍子裁判官、それに鬼丸かおる裁判官の女性3人は、連名で意見を出しました。
この中で「女性の社会進出は著しく進み、結婚前の名字を使う合理性や必要性が増している。96%もの夫婦が夫の名字を名乗る現状は、女性の社会的、経済的な立場の弱さなどからもたらされている。妻の意思で夫の名字を選んだとしても、 その決定過程には、現実の不平等と力関係が作用している」と指摘しました。
そのうえで、「多くの場合、女性のみが自己喪失感などの負担を負うことになり、両性の平等に立脚しているとはいえない。今の制度は結婚の成立に不合理な要件を課し、婚姻の自由を制約する」として、憲法違反だと結論づけました。
また、木内道祥裁判官も、「同じ名字でなければ夫婦が破綻しやすいとか、子どもの成育がうまくいかなくなるという考えは根拠がない」などとして憲法違反だと判断しました。
さらに山浦善樹裁判官は、憲法違反だとしたうえで、「平成8年に、法制審議会が夫婦別姓を認める民法の改正案を出したのに、今も制度を変えていないのは、国会が立法措置を怠っているということだ」として、国に賠償も命じるべきだという反対意見を述べました。

原告団長「悲しくつらい」

原告団の団長で富山市の塚本協子さんは「判決を聞いたとたん、涙があふれました。本当に悲しくつらいです。塚本協子で生きることも死ぬこともできなくなりました。
名前は私にとってどうしても譲れないもの、一生そのものなんです」と涙を流して話していました。

官房長官「国民的議論踏まえ慎重対応」

菅官房長官は午後の記者会見で、夫婦別姓について、「国の主張が基本的に認められたものというふうに考えている。いずれにしろ最高裁の判断が示されたわけであり、それに基づいて対応していくというのは当然のことだと思う」と述べました。
そのうえで、菅官房長官は、記者団が今後夫婦別姓制度について議論していく考えはあるのか質問したのに対し、「国民の間にさまざまな意見があることも事実で、国民的な議論を踏まえながら慎重に対応していくことが必要だ」と述べました。

専門家「合憲判断でも議論すべき」

夫婦別姓を巡る最高裁の判決について、家族法が専門の早稲田大学の棚村政行教授は「家族を巡る状況が国内外ともに変化するなか、『合憲』の判断は時代にそぐわず、最高裁の姿勢は憲法の番人としての立場を放棄したようなものだ」と批判しました。
一方で、「女性3人を含む5人の裁判官が反対の意見を述べたことは評価できるもので、『合憲』判断だとしても国会は社会の変化に合わせた議論をすべきだ。また、国民一人一人も価値観が分かれる問題ではあるが、今回の裁判をきっかけに、家族の在り方について考えていくことが大切だ」と話していました。

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