Forest Studio

2015.12.14 : 新国立競技場 2グループの提案書を公表

新国立競技場の計画の概要や工期などを盛り込んだ2つのグループの「技術提案書」が公表され、ともに環境に配慮したデザインで総工費は1500億円弱となっています。
新国立競技場の設計と施工業者を選ぶJSC=日本スポーツ振興センターは、選定の基準となり、公募した業者側が計画の概要や外観のイメージ、総工費、 それに工期などを示した「技術提案書」を14日午後、JSCのホームページで公表しました。公表されたのは2つのグループの案で、ともに環境に配慮したデザインで総工費は1500億円弱、 工期は2019年11月30日の完成としています。
1つめのグループA案のコンセプトは「木と緑のスタジアム」で、スタジアムを取り囲む階層式のテラスにふんだんに緑を取り入れ、屋根にも多くの木材を用いています。
政府が上限として1550億円と設定していた総工費は1489億円余りで、観客席を同じ形のフレームを連続して組み合わせるシンプルな構造にするなどして、コスト削減と工期短縮につながるとしています。
もう1つのグループのB案は「21世紀の新しい伝統」がテーマで、白磁の器のようなスタンドを長さ19メートルの木製の柱72本で支えるデザインになっています。
総工費は1496億円余りで、合理的な設計や地盤改良工法の工夫などでコストの抑制を図るほか、掘削する土の量を削減することなどで工期を短縮させるとしています。
14日に公表された技術提案書については、JSCの審査委員会が採点方式で審査したうえで、今月下旬に2つのグループから1つに絞り込みます。そのうえで、 年明けの1月には設計の契約が結ばれ、1年ほどかけて基本と実施設計が行われたあと、来年の年末をめどに工事の請負契約が結ばれ、その後、速やかに着工に移る予定です。

 

グループA案は

1つ目のグループA案は、屋根にも多くの木材を用いていて、日本の伝統的デザインをアピールするとともに木の空間で観客席を包む込むような作りとなっています。
スタジアムの高さは50メートル以下に抑え、周囲の景観に溶け込むよう配慮されています。
また、環境にも配慮され、屋根と客席の間からスタジアム内に風を取り込める構造になっています。風の量を調節することで、夏の暑さや冬の寒さにも対応できるとしています。観客席は3層構造です。

グループのB案は

もう一方のグループのB案は、白磁の器のような形をしたスタンドを、およそ1.5メートル四方で長さ19メートルの木製の柱72本で支えるデザインになっています。
また、スタンドの外側のコンコースには壁を設けずに半分を屋外にしたり、メンテナンスに費用がかかりにくいコンクリートを用いたりして、維持管理費を抑えることに努めています。
また、スタジアムの周囲に川を作ったり、桜などを植えた緑の広場を設けたりして、環境や神宮外苑の景観にも配慮するとしています。

JSC「一定の競争性は確保」

新国立競技場の事業主体であるJSC=日本スポーツ振興センターは16日夕方、都内で記者会見を開き、技術提案書の公表までの経緯や今後の審査の流れについて説明しました。
会見には新国立競技場設置本部長を務める池田貴城理事と、設置本部の担当者が出席しました。まず、応募が2件だったことについて、 池田理事は「2つとも総工費や工期など必須の要求水準をクリアしている。限られた時間のなかで、一定の競争性は確保できたと思っている」と話しました。
そのうえで、担当者は「多様性の観点では2つしかないという指摘もあるかもしれないが、応募期間やコスト、工期などが限られ、オリンピックの失敗が許されないというなかで、 応募できるグループが2つしかなかったということだと思う」と補足しました。
また、2つから1つへの最終的な絞り込みは、審査委員会が採点したうえで、JSCの大東和美理事長がアスリート経験者の意見やホームページに寄せられた声を参考に決めるとしていますが、 池田理事は「審査委員会は専門的な観点から計画の実現可能性などを判断する。理事長が点数の低いほうを選ぶ可能性はなくはないが、小さいと思う」としています。

技術提案書 異例の事前公表

業者の決定前に技術提案書を公表することは、官製談合防止法で掲げられる「公正な競争」を妨げるおそれがあるとして通常は行われておらず、極めて異例だということです。
それでも今回、公表に踏み切った背景には、新国立競技場の整備計画の白紙撤回で批判された「透明性の欠如」を払拭(ふっしょく)したいというJSCや文部科学省などのねらいがあります。
白紙撤回前の計画を巡っては、2520億円に膨らんだコストとともに、審査の過程が不透明だという批判が集まりました。こうした前回の反省を踏まえて、 事前に公表するべきだという意見と談合防止のため事前公表は控えるべきだという意見が関係機関の間でもあるなか、ぎりぎりの調整が行われてきたということです。
JSCの審査委員会の村上周三委員長は、事前公表を明らかにしたことし10月の記者会見で、「国民の関心が高く途中経過を情報提供したほうがいいと思い公表の前倒しを決めた」と話していました。

提案書の選定方法は

14日公表された技術提案書についてJSCの審査委員会は、コストや工期、施設の計画など9つの項目を点数化して審査にあたります。
審査にあたって事前に設けられて公表された評価項目は140点満点で、最も高い半分の70点を占めているのが「コスト・工期」です。
内訳は、事業費削減の実現性が30点、工期短縮の実現性が30点、それに、維持管理費の抑制策の的確性が10点となっています。
このほか、「施設計画」の合計が50点で、内訳は、ユニバーサルデザインの計画、日本らしさに配慮した計画、環境計画、構造計画、建築計画がそれぞれ10点となっています。
さらに、業務の理解度や確実に事業を遂行するための体制などの「業務の実施方針」が20点という配分になっています。
審査委員会は、評価項目ごとに「特に優れている」から「評価対象となる提案なし」までの6段階で評価し、点数化して合計点が高いほうを選ぶことにしています。
審査委員会の選定を受けてJSCの大東和美理事長が業者を決め、今月下旬に政府の関係閣僚会議で了承を得ることにしています。

建築学ぶ学生たちの感想は

ホームページで公開されたデザインや計画の概要について、東京・新宿区にある工学院大学で建築を学ぶ学生や教授に感想を聞きました。
このうち、大学院で建築を学んでいる女子学生は「これまでの競技場のデザインは斬新だったけれど、周囲の森と調和しているかなどについて議論があったと思う。
今回は2つの案とも木材が多く使われていて調和という点ではよいと思う。日本は昔から木材を使用した建築が多いので、そういう点では親近感が湧く」と話していました。
また、別の男子学生は「日本らしさはあるかもしれないが、世界の建築技術に追いつくという点では前回のデザインのほうがよかった。この2つの案しかないのは残念に思う」と話していました。
工学院大学建築学部の澤岡清秀教授は「2案とも今までの批判を受けて、威圧的ではなく小さく見せるという共通したデザインの意識が感じられる。無理なデザインではなく施工的にも難しくないだろう。
木材で大きなものを作るというのは、日本の伝統技術でこのような巨大な競技場も木材を使用してできることを示したかったのではないか」と話していました。

ページのtop へ