新国立競技場 首相「計画を白紙に戻す」


安倍総理大臣は、総理大臣官邸で、記者団に対し、東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとなる新しい国立競技場について、「現在の計画を白紙に戻し、ゼロベースで計画を見直すと決断した」と述べ、計画を見直す方針を表明するとともに、下村文部科学大臣らに新しい計画を速やかに作成するよう指示したことを明らかにしました。 2020年の東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとなる新しい国立競技場の建設を巡っては、費用が基本設計よりおよそ900億円多い2520億円になることが決まったことに対して、計画の見直しを求める声が与党内からも出ています。 こうしたなか安倍総理大臣は17日午後、一時間半余りにわたって総理大臣官邸で、大会組織委員会の会長を務める森元総理大臣と会談し、途中から下村文部科学大臣と遠藤オリンピック・パラリンピック担当大臣も加わりました。 このあと安倍総理大臣は、記者団に対し、「2020年の東京オリンピック・パラリンピックの会場となる、新国立競技場の現在の計画を白紙に戻し、ゼロベースで計画を見直すと決断した」と述べ、計画を見直す方針を表明しました。そのうえで、安倍総理大臣は「オリンピックは国民皆さんの祭典だ。主役は国民一人一人、そしてアスリートの皆さんだ。だから皆さんに祝福される大会でなければならない。国民の皆さん、またアスリートたちの声に耳を傾け、1か月ほど前から計画を見直すことが出来ないか検討を進めてきた」と述べました。 そして、安倍総理大臣は「手続きの問題、国際社会との関係、東京オリンピック・パラリンピック開催までに工事を終えることができるかどうか、またラグビーワールドカップの開催までには間に合わなくなる可能性が高いという課題もあった。本日、オリンピック・パラリンピックの開催までに間違いなく完成することができると確信したので決断した。オリンピック組織委員会の森会長の了解もいただいた」と述べました。 一方、安倍総理大臣は「ラグビーワールドカップには残念ながら間に合わせることはできないし、会場として使うことはできないが、今後とも、ラグビーワールドカップに国としてしっかりと支援していくその考えに変わりはない」と述べました。 そして、安倍総理大臣は「オリンピックにおいて、まさに世界の人々に感動を与える場に新しい競技場をしなければならないという大前提のもとに、できるかぎりコストを抑制し、現実的にベストな計画を作っていく考えだ」と述べました。そのうえで、安倍総理大臣は「大至急、新しい計画を作らなければならない。先ほど下村文部科学大臣と、遠藤オリンピック・パラリンピック担当大臣に、直ちに新しい計画づくりに取りかかるように指示をした。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを国民みんなで祝福できる、そして世界の人たちから称賛される大会にしていきたい」と述べました。
森組織委員会会長「大変残念」
東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は、新国立競技場の計画見直しについて、「組織委員会は、どういう競技場でも要はアスリートたちがしっかり競技できればいいので、スタイルや形にこだわりはない。日本のスポーツの聖地として、世界に発信できる最高のスポーツ施設になってくれるというふうに夢を描いていただけに、そういうものが必要ないとなったのだとしたら、それは大変残念に思う」と話していました。 森会長は今月、マレーシアのクアラルンプールで開かれるIOC=国際オリンピック委員会の総会で今回の見直しを報告する予定で、「IOCには事情を説明しなければいけないが、国立競技場の費用を縮減させることは、コスト削減を進めるIOCの改革の趣旨にむしろ沿っていると言っていいのではないか」との認識を示しました。 また、ゼロベースでの計画見直しに関連し、「以前のコンペの2番手や3番手の案を採用するのがいいのではないかと安倍総理に進言したが、『そっちのほうが高くなる』とずばり言った。だから『ゼロからやる』ということだった。官邸は2020年4月には完成という計画を持っていたのでお任せするだけだ」と話していました。
膨らむ建設費に批判強まる
新国立競技場の最初のデザインは2012年11月、建築家の安藤忠雄氏が委員長を務めた審査委員会で、建設費を1300億円とする想定のもと、イラク人女性建築家、ザハ・ハディドさんの作品を最優秀賞に選びました。しかし、ハディドさんのデザインを忠実に再現した場合、費用が想定の2倍を超える3000億円に上ることが分かり、去年5月にまとまった基本設計では、当初のデザインと比べ、延べ床面積を25%程度縮小するなどして1625億円まで費用を圧縮しました。 その後、競技場の建設に向けて解体作業が進められていましたが、建築資材や人件費の高騰なども加わり、工事を請け負う予定の建設会社の試算で、そのままの計画では費用が3000億円を超えるとともに、工期も間に合わないことが分かりました。このため国は、斬新なデザインの象徴となる「キール・アーチ」と呼ばれる弓の形をした柱は残す一方、開閉式の屋根の設置を、東京オリンピック・パラリンピックの終了後に先送りするなど、費用の圧縮に向けた調整を進め、建設費は基本設計からおよそ900億円多い2520億円になることが決まりました。 しかし、2520億円という建設費は、過去のオリンピックのメインスタジアムと比べておよそ5倍から8倍と極めて高額であることなどから批判が噴出し、NHKの世論調査では建設計画に納得できないと答えた人が81%に上りました。また、野党だけでなく、与党からも建設費が膨らんだことへの批判が強まり、16日開かれた自民党の各派閥などの会合や、17日開かれた自民党の内閣部会と文部科学部会の合同会議でも、政府に対し、計画の見直しを求める意見や政権運営への影響を懸念する声などが相次ぎました。
JOC「公約違反に当たらず」
国立競技場に関連し、改築計画を見直した場合、「招致の際の国際公約に違反する」との指摘があることについて、JOC=日本オリンピック委員会は「デザインや工期の変更が違反に当たることはない」という認識を示しています。 東京大会の招致の際、IOC=国際オリンピック委員会に示した「立候補ファイル」からの開催計画については、競技会場の変更などすでに見直しされたケースが出ています。 今回の国立競技場のデザインを含む改築計画の見直しについて「招致の際の国際公約に違反する」との指摘もありますが、JOCによりますと、計画を変更した際はIOCへの報告と承認が必要なものの、大会の実施を妨げる内容でない限り、競技会場のデザインや工期の見直しなどがただちに国際公約の違反に当たることはないということです。
JOC会長「選手第一に考えて」
JOC=日本オリンピック委員会の竹田恒和会長は、安倍総理大臣が新国立競技場の建設計画を見直す方針を示したことについて「公約に沿った競技場が実現できることが理想だが、IOCのオリンピック改革に照らせば、費用がいくらかかってもいいわけではない。先月、IOCのバッハ会長と新国立競技場について電話で話した時も、『デザインが争点ではなく、日本のテクノロジーで、レガシーとしていいものを残すことが大事だ』と言っていた。そのことは下村文部科学大臣に伝えたが、『今からでは見直しは間に合わない』ということだった。大会に間に合い、選手を第一に考えてすばらしい施設を作ると検討するならば、国民にも理解してもらえれるのではないか」と話しました。そのうえで、「8万人の座席は、デザインと関係ない公約なので、守らなければならないし、プレ大会も開かなければならない」と述べ、プレ大会の時期については、「オリンピックの1年前の7月、8月が理想だが、ずれて翌年になっても、条件は満たすと思う。サッカーと陸上の2競技が考えられ、時期は今後、それぞれの連盟と交渉していく」と話していました。